胎児出生前診断 |
一般に胎児出生前診断という言葉を聞くとダウン症など染色体の異常や先天性奇形のイメージが強いように思われます。しかし本来の意味は、胎児の病気はもちろんですが陣痛開始から分娩終了までの胎児の状況を診断することまで含まれます。
しかしこの項では胎児の先天性の異常に関する検査や結果の説明をさせていただきます。分娩時の胎児診断は分娩時の異常をご覧ください。胎児の先天性異常の出生前診断はご両親の健康な子供さんを授かりたいという希望にこたえ、さらに胎児自身の健康を守るために行われる一連の検査であり治療です。結果が悪いからといって人工妊娠中絶術を行うためのものでは決してありません。また、先天性の病気に対する出生前診断は必ず受けなくてはならない物ではありません。ご家族の希望で検査を拒否することもできます。主治医と相談の上ご家族で決めていただけばいいのです。 |
|
|
先天性異常の出生時診断法 |
先天性の異常は、先天性奇形に代表される形態学的な異常と体内の物質代謝などの機能異常を示すものに大別されます。また原因としては染色体の数の異常や構造的な異常から起こる染色体異常と、一つの遺伝子の変異などによって起こる単一遺伝子病、複数の遺伝子と環境因子などが原因で起こる多因子遺伝子病、さらに薬や放射線やウイルスなどによって起こる外因性異常などに分類されます。
@胎児に対して危険の少ない検査
超音波診断装置
MRI(磁気共鳴画像)
母体血清マーカー(トリプルマーカー・クワトロマーカー)
A胎児に対してやや危険のある検査
絨毛採取
羊水検査
胎児採血
胎児組織検査
Bその他の試しみられている検査
母体血中胎児細胞による検査
着床前遺伝子診断 |
|
|
超音波診断装置 |
通常の検査内容は・・・→ こちらへ
以下の異常所見を指摘された場合は、胎児の精密検査(母体血清マーカーや染色体検査など)を受けるようにお勧めいたします。単発で認められる異常もありますが(項部のう胞状ヒグローマ、項部浮腫、心臓奇形、十二指腸閉鎖などは、単発奇形のこともありますが・・。)ほとんどの場合複数の異常所見を合併している場合が多く染色体検査を含め精密検査が必要な場合があります。
胎児の
身体部位 |
異常の所見 |
脳 |
脳室の拡大、全前脳胞症、小頭症、脈絡叢のう胞(みゃくらくそうのう胞)、
脳梁欠損(のうりょうけっそん)、前頭葉短縮、後頭蓋窩異常(こうとうがいかいじょう) |
頭蓋 |
イチゴ状頭蓋、短頭 |
顔面 |
顔面裂、眼と鼻の異常、巨舌、小顎症 |
頚部(首周辺) |
項部のう胞状ヒグローマ、項部浮腫、胎児水腫、NT肥厚(妊娠初期) |
胸部 |
横隔膜ヘルニア、心臓奇形 |
消化管 |
食道閉鎖、十二指腸閉鎖、高輝度腸管、腹部のう胞 |
腹壁 |
臍帯ヘルニア |
腎臓と尿路系 |
腎盂拡張、尿道閉鎖、腎無形成 |
骨格 |
四肢奇形、大腿骨短小上腕骨短小、Overlapping finger |
発育 |
胎児発育遅延 |
|
|
|
NT(nuchal translucency)について |
NTは超音波診断装置で妊娠初期(妊娠10〜14週)の比較的早い時期に確認される胎児の異常で、胎児の後頭部〜頚部(首)〜背中にかけての液体貯留で発見され、その厚みを測定した値をNT計測値といいます。この値が多くなるに従い胎児の染色体異常の確立が高くなります。しかしNT計測値が異常であっても、染色体検査(羊水検査など)の結果が正常であれば約70%の胎児は何事も無く(無病生存)成長します。
NT計測値は、決して染色体異常を診断するものではありません。大切な赤ちゃんの異常を発見するための数あるスクリーニング検査の1つです。
★NT値異常を示す胎児異常とは・・・
Trisomy21(ダウン症)
Trisomy18(エドワード症候群)
Trisomy13(パトウ症候群)
ターナー症候群
その他
★NT値による危険率
計測値が大きくなるにしたがい年齢によるリスクよりも上記の病気の可能性が高くなります。
NT計測値 |
危険率 |
3mm |
3倍 |
4mm |
18倍 |
5mm |
28倍 |
6mm以上 |
36倍 |
★NT値別の染色体異常の頻度
計測値だけの染色体異常の頻度は以下のとおりです。
NT計測値(単位はmm) |
染色体異常の% |
<3.4 (3.4mm以下) |
<0.3%以下 |
3.5〜4.4 |
約21% |
4.5〜5.4 |
約33% |
5.5〜6.4 |
約50% |
6.5< (6.5mm以上) |
約65% |
|
|
実際の超音波診断装置によるNT計測の
写真です。
赤い矢印の部分がNTです。 |
|
|
母体血清マーカー |
トリプルマーカー・クワトロマーカー
こちらをご覧ください。 |
|
|
羊水検査 |
羊水はほとんどが水分からなり、胎児尿と少量の肺胞から出る分泌液です。残りの1〜2%が電解質、タンパク質、脂質、糖質、胎児から抜けた産毛や剥れ出た胎児由来の細胞などが含まれます。
羊水の働き
@胎児を保護する
羊水は子宮収縮や外部からの衝撃などを緩衝して、胎児や胎盤などの胎児の付属物を保護したり、逆に胎児が動いた時に母体の子宮や周りの臓器に対する影響を軽減する働きがあります。
A胎児の体温調節機能
哺乳動物の胎児の体温は、母体の体温より0.5℃高く維持されています。
B胎児発育に関する役割
羊水は子宮の中で、胎児が自由に動けるスペースを確保したり呼吸運動などに大切な役割をはたしています。またいろいろなアミノ酸や発育因子なども存在する事が現在分かっています。
C感染防御機能
羊水中には抗菌作用のあるさまざまな物質が含まれています。 |
|
|
羊水穿刺とは |
羊水穿刺には、羊水中の胎児由来の物質を検査するための「診断的羊水穿刺」と、重症羊水過多症や頚管無力症の胎胞形成例に対する減圧療法のための「治療的羊水穿刺」があります。通常は「診断的羊水穿刺」は妊娠16週以降に、「治療的羊水穿刺」は妊娠22週以降に超音波診断装置を用いて「穿刺部位」を決定し行います。しかしこの検査(治療)は、母児ともにまったく侵襲が無いわけではありません。現在の統計では300例に1例程の胎児死亡・流早産・破水・感染を含めた胎児に対する副作用が報告されています。
羊水穿刺の主な適応を頻度の多い順にあげると・・
@胎児の染色体分析
A遺伝性のある疾患の出生前診断
B羊水中の生化学検査
C子宮内感染の出生前診断
D治療目的の羊水穿刺 |
|
|
胎児の染色体分析とは |
羊水検査の中で最も良く行われる検査です。羊水中にある胎児皮膚由来の繊維芽細胞を培養して胎児の染色体検査を行います。高齢妊娠・染色体異常児の出産既往・超音波診断などで胎児異常を認め染色体異常が疑われるとき、などに行います。染色体には22組(44本)の常染色体と1組(XXまたはXY)の性染色体があり、ダウン症などに代表される常染色体の数の異常とターナー症候群などに代表される性染色体の数の異常などがあります。
染色体異常とは?・・→ こちらへ |
|
|
遺伝性のある疾患の出生前診断について |
先天性代謝異常症とは、ある特定の遺伝子に異常が発生するとその遺伝子が関係する酵素に異常がおこります。酵素の異常は、細胞内や生体内の物質代謝を狂わせるために発症する病気のことです。物質代謝異常によって生じた羊水や胎児細胞内の異常代謝物質や酵素欠損などを検査することで診断します。
主な診断方法
@羊水中のアミノ酸、有機酸、脂質、ムコ多糖類、ステロイドホルモン、酵素などを調べる。
A羊水中の細胞を培養して、細胞内の酵素を調べる。
B羊水中の細胞を培養して、細胞の形や代謝状態を調べる。
C羊水中の細胞を培養して、DNA解析をして調べる。
主な単一遺伝子病は・・→ こちらへ
主な先天代謝異常症は・・→ こちらへ |
|
|
羊水中の生化学検査について |
羊水はほとんどが胎児の尿であることから、通常の子供の尿検査と同じように羊水の浸透圧、電解質、ブドウ糖濃度、たんぱく質濃度、αフェトプロテインなどを検査することで、病気が診断できる場合も有ります。 |
|
|
子宮内感染の出生前診断について |
羊水中の細菌検査などを行います。 |