不妊治療の進歩によって以前に比べて双胎妊娠や多胎妊娠の頻度が最近増加していることは、皆様もご存知だと思います。
単胎妊娠に比べて双胎や多胎妊娠では、早産や子宮内で胎児の発育不全などがおこりやすく、さらに周産期死亡率も通常の妊娠に比べて5〜7倍高いといわれています。 |
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双胎妊娠の種類 |
1卵性双胎児
1卵性双胎児は受精卵の分離の時期によって胎児を分けている卵膜に違いがあります。その膜の種類によって以下のように分類されます。また1卵性双胎児は遺伝学的にまったく同じで、同性です。
@ 2絨毛膜2羊膜性双胎(DD Twilling) 頻度は25%前後です。
A 1絨毛膜2羊膜性双胎(MD Twilling)頻度は60〜80%前後です。
B 1絨毛膜1羊膜性双胎(MM Twilling) 頻度は0.5〜3%前後です。
@ は受精直後から3日以内に受精卵が分離した場合、または2卵性双胎児
A は受精後3日〜8日以内に受精卵が分離した場合
B は受精後8日〜13 日以内に受精卵が分離した場合
@とAの胎児はそれぞれ別々の卵膜に包まれて生活していますが、Bは1部屋で一緒に生活することになります。
2卵性双胎児
双児は遺伝的に兄弟(姉妹)の関係にあり、胎盤も別々に2つあります。分類的には必ず2絨毛膜2羊膜性双胎 (DD Twilling)です。性別は同性のことも異性のこともあります。
@ A B |
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双胎妊娠の超音波診断 |
2絨毛膜2羊膜性双胎
子宮内に胎児を2人確認しています。
胎児は壁で仕切られた別々の胎のうで生活しています。
妊娠初期の超音波診断によって、上記@〜Bのどのタイプの双胎妊娠かを診断します。また1卵性双胎か2卵性双胎かの診断は、2児が異性であれば2卵性ですが、同性のときは産まれるまで分かりません。 |
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双胎妊娠時の胎児の異常 |
★双胎間輸血症候群(twin-to-twin transfusion syndrome:TTTS)
1絨毛膜性双胎妊娠の10〜20%に発症して予後不良な疾患です。胎盤の中で共有している血液の流れにアンバランスを生じてどちらか一方の胎児に血液が多く流れてしまうためにおこります。胎児の症状はDonor
児とRecipient 児で異なり次のようになります。
1)Donor 児 (供血児:血液を取られてしまう胎児)
重症貧血症→低血圧→腎臓機能低下→尿量減少→羊水量減少→子宮内胎児発育不全→腎不全→胎児死亡
2)Recipient 児 (受血児:血液を受け取る胎児)
重症多血症→高血圧→腎血流量増加→尿量増加→羊水量増加→体重増加→心不全→胎児水腫→胎児死亡
診断基準
@1絨毛膜性双胎妊娠である。
A Donor 児で羊水量減少、膀胱が小さい。
B Recipient 児で羊水量増加、膀胱が大きい。
以上がすべて確認されればTTTS と診断します。
重症度分類(超音波診断で行います)
Stage T |
Donor 児(供血児)の膀胱が見える |
Stage U |
Donor 児(供血児)の膀胱が見えない |
Stage V |
臍帯(へその緒)の血流異常などを認める |
Stage W |
Recipient 児(受血児)の胎児水腫 |
Stage X |
胎児死亡 |
治療
TTTS の発症時期によって決まります。妊娠16〜18 週頃から発症する場合は、重症化することが予想されます。診断が確定した場合、妊娠26 週頃を境に胎内治療か胎外治療かを判断します。妊娠26
週以前は胎内治療(積極的羊水除去)を第一選択しますが、最近StageV以上へ悪化する場合は、レーザー治療を行う場合があります。妊娠26 週以降で胎児の成長状態良好で胎外生活可能と認められた場合は、積極的に分娩させて治療を行います。
★子宮内胎児発育不全
双胎妊娠の15〜30%に発症し、頻度は単胎妊娠の4〜5%に比べて5〜7 倍高いといわれています。とくに妊娠30 週以降に発症し、双児同程度に発症するよりはどちらか1
児に強く発症します。原因は、単胎妊娠に比べて双胎妊娠では胎盤の機能不全がおこりやすく、その結果胎児の栄養障害が起こるためといわれています。
★胎児の不均衡な発育(Discordant twin)
胎児の体重差が15〜25%ある場合をいい、原因は、先天的な異常(奇形や染色体の異常)、胎盤の大きさに差があるとき、双胎間輸血症候群などがあげられます。体重の少ない胎児に周産期合併症(神経学発達不全や周産期死亡など)が多いといわれ、とくに1絨毛膜性双胎妊娠が起こす場合が高いといわれています。
★Stuck twin
2羊膜性双胎妊娠のときに何らかの理由で双胎間の羊水量に大きな差が出来ると、少ないほうの胎児が子宮の壁に押し付けられて(Stuck)、動きが制限されて顔や身体に変形や発育不全を起こしてしまいます。
★臍帯相互巻絡
1絨毛膜1羊膜性双胎妊娠(B)の場合におこります。胎児を隔てる膜が無いために2児の臍帯(へその緒)が絡まって血液の流れが遮断されてしまう危険があります。
★1児胎内死亡
時には胎児2児のうち1児が突然死亡してしまうこともあります。我々医師は悲しい診断を報告しなければならない状況ですが、同時にまだ生存して頑張っている胎児を直ぐにも救わなくてはなりません。この場合も1絨毛膜双胎と2絨毛膜双胎妊娠では生存児の予後が異なり予後不良例は、生存児の連鎖的な死亡を含めて1絨毛膜双胎で約48%、2絨毛膜双胎妊娠では約16%でした。 |
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双胎妊娠(多胎妊娠)時の母体の異常 |
★妊娠後半になると単胎妊娠に比べて、早産しやすい
通常の単胎妊娠に比べて子宮の増大が急速に進むために早産が起こりやすくなります。妊娠22 週以降の双胎妊娠が1 週間以内に分娩に至る確立は同期の単胎妊娠に比べて6
倍以上高く、妊娠34 週以降では13 倍以上といわれています。
★妊娠後半になると単胎妊娠に比べ異常がおこりやすい
子宮内胎児発育不全、妊娠高血圧症候群、HELLP 症候群、妊娠糖尿病、血栓症などがおこりやすく、双胎妊娠における妊娠高血圧症候群になる頻度は20〜40%で、通常の単胎妊娠に比べて3〜4 倍の危険性があります。また、単胎妊娠に比べて母体の循環血液量の増加に伴う肺水腫やHELLP
症候群の合併にも注意が必要です。
★妊娠37週以降の双胎妊娠では、妊娠40 週以降の単胎妊娠に比べて周産期死亡率は6 倍以上高い
★胎児の状態や、胎位(逆子など)によって、帝王切開術をおこなう頻度が高い
★分娩後に弛緩出血や周産期血栓塞栓症の発症率の増加 |