弛緩出血 |
分娩第3期(胎盤が出てくるとき)または胎盤が出た後で、子宮の収縮が悪いと出血が続きます。この出血量が500mlを越えるようなときに、弛緩出血といいます。 |
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原因 |
子宮は、平滑筋という筋肉からなり赤ちゃんが産まれた後に持続的に強く収縮して妊娠以前の大きさに戻ろうとします。この持続的な収縮が上手くできなくなると、筋肉の中を走行している胎盤へつながっていた血管を収縮によって押しつぶすことが出来なくなり、胎盤が出た後に断裂した子宮内の血管から出血が続いてしまいます。これが弛緩出血です。 |
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正常の状態
子宮が強く収縮すると、胎盤がはがれて切れた血管は子宮の筋肉による圧迫でつぶされて、あたかも糸ですべての血管を縛ったようになり、その部位で血液の流れに抵抗が起こり、血液が固まって止血されます。 |
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弛緩出血の場合
子宮が強く収縮しないために、胎盤がはがれて切れた血管は圧迫されず抵抗も無いので血液は固まらないため出血が続いてしまいます。 |
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子宮収縮不良になる原因 |
原因はさまざまですが、特に多いものとして妊娠中から子宮が大きくなりすぎて、分娩直後に子宮が伸びきってしまい上手く収縮できなくなることが多いようにおもわれます。また遷延分娩や微弱陣痛があると子宮自体の収縮力の低下の原因にもなります。
以下の表を参照してください。 |
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妊娠中からの原因 |
子宮の過伸展 |
多産婦、巨大児、双(多)胎妊娠、羊水過多 |
陣痛の異常 |
子宮の疲労 |
遷延分娩、微弱陣痛に対する子宮収縮促進剤の乱用 |
子宮自体の異常 |
子宮の病変 |
子宮筋腫、子宮の奇形、子宮内感染 |
分娩後の状態 |
残留物 |
胎盤、卵膜、血液の塊などが子宮に残っている |
母体による |
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遺伝や体質 |
その他 |
膀胱や直腸 |
尿や便が溜まっている |
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分娩時間 |
分娩時間が極端に短いとき(墜落分娩など) |
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症状 |
分娩直後〜数時間にかけて起こる可能性があり、子宮の収縮不良と子宮内からの大量出血です。この場合、後陣痛(「あとばら」ともいいます)は無く、膣からの出血は「チョロチョロ」出るのではなく、塊が「ドクドク」出る感じがします。 |
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治療 |
基本治療は、子宮の収縮促進と輸液(点滴によって循環血液量を確保する)、時には輸血も考慮します。
第1に、子宮をお腹の上からマッサージ(子宮底輪状マッサージといいます))して収縮させます。このとき子宮内に血液の塊などがあると一時的に収縮によってその塊が出てくるため出血量が増しますがその後収縮が良くなれば止血します。マッサージを行っても収縮が良くならなかったり、時間が経つとまた収縮不良になってしまう場合などは、薬物療法を行います。
薬物療法
以下の薬剤を用いて点滴を行います。
子宮収縮剤 マレイン酸メチルエルゴメトリン(麦角剤) : メテナリンなど
オキシトシン製剤 : アトニン O (アトニン オー)
プロスタグランディン : プロスタグランディンF2α
双合子宮圧迫法
点滴による薬物療法も効果が期待できないときには、術者の片手をお母さんのお腹の上に、もう片方の手を腟の中に入れて両手を使って子宮を強くつまんで止血します。この状態で、数分〜数十分間程、圧迫止血を行います。
腟強圧タンポン法
子宮の中と腟内に、ヨードホルムガーゼや滅菌ガーゼを出来るだけたくさん入れて、圧迫止血を行います。ガーゼを硬く入れることによって周囲の神経を刺激して子宮の収縮を促進します。
その他
止血できない場合などで出血量が増加すると出血性ショックやDICなどを引き起こすことがあり、そのような状況に陥った場合は、子宮収縮促進の治療と同時に全身状態の管理・治療が必要になります。子宮収縮促進剤に抵抗を示しさらに出血が続き全身状態が悪化するような場合には、輸血などを行いながら子宮全摘出術(子宮を取る手術)を行う場合もあります。 |