HOME  症状  検査  妊娠週数  分娩経過  産後経過  新生児  さくいん  

Presented by Kitramura-Hosp.com


症状 よくある質問 検査結果 妊娠週数 分娩経過 産後経過 新生児  さくいん おすすめ商品
全身性エリテマトーデス

全身性エリテマトーデス(Systemic lupus erythematosus : SLE)は、自己免疫疾患(自身の免疫系が自分自身の正常な細胞や組織に対して過剰に反応し攻撃を加えてしまうことで症状を来す疾患の総称です)の中で特に15〜40才代の女性に発症しやすい(男:女=1:9)といわれています。また妊娠がSLEに及ぼす影響や治療に用いられる薬剤が妊娠や胎児・新生児に及ぼす影響を理解する必要があります。 
   
疫学と病因 関節リウマチに次いで2番目に多い疾患で他の自己免疫疾患と同様に発生頻度は圧倒的に女性に多いために、エストロゲンなどの女性ホルモンの発症への関与が疑われていますが遺伝因子や環境因子なども発病に関連しているといわれています。また人種的には、アジア人・黒人が白人よりも多いとされています。 
   
症状 ★皮膚粘膜症状
顔の頬から鼻にかけて蝶形紅斑という紅い丘疹が特異的な症状といわれていますが実際の発症は半分程度で診察のきっかけとしては、光線過敏症や無痛性の口内炎が本症の大半で見みられます。また血管炎を合併すると蕁麻疹、紫斑、皮膚潰瘍などを起こすことがあります。

★全身症状
発熱、易疲労感など

★内臓病変
特に典型的な病変はなく、人によって大きく異なります。

★関節と筋肉
関節リウマチと似た関節炎がおこりますが、関節破壊はおこしません。筋炎をおこすことはまれです。

★中枢神経症状
いろいろな中枢神経症状がこの疾患によっておこることがあります。うつ病・頭痛・痙攣・髄膜炎・精神神経症状・脳血管障害による症状などがあります。視神経が傷害され急に失明することもあります。

★末梢神経症状
血管炎から多発単神経炎をおこしたり急性炎症性多発性根神経炎のような症状をおこすこともあります。

★肺と心臓
胸膜炎や心外膜炎・心内膜炎をおこす頻度が高いといわれています。いっぽう、通常自己免疫疾患にみられやすい間質性肺炎や肺高血圧の頻度はあまり高くないようです。

★消化管症状と肝臓
一般的な消化器症状(吐き気・嘔吐・便秘・下痢、・腹痛など)と慢性肝炎があります。

★腎炎
ループス腎炎と呼ばれ、症状としてはタンパク尿や浮腫(むくみ)があります。さらに腎不全の原因ともなります。

★血液症状
赤血球・白血球・血小板のいずれの値も低下する汎血球減少をおこします。そのため全身に出血斑(内出血)をおこしたり、貧血の原因となったり、重篤な感染症の原因となったりもします。特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic thrombocytopenic purpra: ITP)と自己免疫性溶血性貧血(Autoimmune hemolytic anemia: AIHA)の合併する状態をエヴァンズ症候群といい、SLEに特徴的な症状だといわれています。
 
   
妊娠の許可条件について ★SLEの患者さんに妊娠を許可する条件は以下のとおりです
@SLE発症後、数年間症状が安定している
Aループス腎炎などの腎障害がない
B治療薬の副腎皮質ステロイドの量が1日15r以下である
CSLEが安定していても(寛解期)、抗リン脂質抗体や抗SS-A抗体が陽性でない。
 
   
妊娠がSLEに与える影響について 一般的に、妊娠によってSLEは初期(妊娠14週頃まで)には憎悪し、その後分娩までは軽快、産褥期になってまた症状が憎悪するといわれています。しかしSLE自体軽快と憎悪を繰り返す病気なので今現在も一定の見解はありません。現在までに明らかにされていることは、「妊娠以前のSLEの状態が、妊娠中の病状に関係している」ことです。妊娠以前の状態が活動性(何らかの症状があり高度治療が必要な場合)のときには、妊娠中にさらに悪化する可能性が高いということです。 
   
SLEが妊娠に与える影響について SLEがある場合、妊娠しても自然流産や死産となることが多く、また順調に妊娠が継続しても子宮内胎児発育遅延や胎児機能不全などのために早い時期に分娩せざるを得なくなる場合があります。

★抗リン脂質抗体について
「抗リン脂質抗体」とは体内にあるリン脂質に対する自己抗体のことで、抗カルジオリピン抗体(抗CL抗体)とループス抗凝固因子(LAC)があります。この抗体を持っている患者さんが、血小板減少症や血栓症さらに流産や死産を繰り返すような場合を「抗リン脂質抗体症候群(APS)」といいます。APSの患者さんが流産や死産を繰り返すのは、妊娠子宮や胎盤内の血管で血栓(血液の塊が血管を塞いでしまう)をおこし、胎児への酸素や栄養分の補給が閉ざされてしまうためです。

★抗リン脂質抗体陽性に対する治療法
以前からいろいろな治療法が試されていますが、治療効果と副作用の問題があり一長一短です。
@副腎皮質ステロイドやγグロブリン大量療法による自己抗体産生抑制
A低用量アスピリンやヘパリン療法による血栓形成の抑制
B血漿交換療法による血中の抗体除去

抗リン脂質抗体についてさらに詳しく・・ → こちらへ
 
   
SLEが胎児や新生児に及ぼす影響について ★新生児ループス
新生児ループス(neonatal lupus erythematosus : NLE)とは、SLEの母体から産まれた赤ちゃんにループス様皮疹、白血球減少症、血小板減少症などのSLEに似た症状を起こすことがあります。この症状は一過性で妊娠中に母体から胎児に移った抗体(移行抗体)が半年くらいで消失すれば徐々に改善します。
一方頻度は少ないですが新生児の心臓に完全房室ブロック#1がある場合、難治性で生涯心臓にペースメーカーを必要になる場合があります。これは現在の研究で母体中の52kD SS-A抗原に対する抗SS-A抗体と48kD SS-B抗原に対する抗SS-B抗体の関係があるといわれています。
 
   
妊娠中の管理 ★SLEの薬物療法について
妊娠中のSLE治療は、基本的に妊娠以前の治療法を継続することです。妊娠したからといって症状が安定していれば副腎皮質ステロイドを増量することはありません。またステロイド自体の胎児への影響は、動物実験(ラット)では催奇性が報告されていますが、ヒトでは証明されていません。

★妊娠中の検査
母体のSLE悪化と腎臓機能の悪化を早期発見することと、母児双方の適切な分娩時期の決定が中心になります。

母体の管理 血清補体価#2(CH50)の変動を随時チェックし、急激に減少したり低値が持続的する場合などはSLEが悪化している場合があります。

胎児の管理 子宮内胎児発育遅延(IUGR)や羊水の量(羊水過小)などに注意が必要です
@抗リン脂質抗体陽性の場合 超音波検査で子宮や臍帯などを持続的にチェックし血栓形成などに注意します
A抗SS-A抗体陽性の場合 妊娠16週以降になると同抗体が胎児に移行するといわれているため、超音波検査などで胎児の完全房室ブロック#1を注意し、発見した場合にはデキサメタゾンなどの投与をします。
 
   
産褥期の管理 産褥期にはSLEが悪化することが多いために、妊娠中の3倍の副腎皮質ステロイドを投与し症状を診ながら減量します。母乳中への副腎皮質ステロイドの移行は少ないため1日量として30〜40r程度の量では母乳を中止する必要はありません。
   
一言 妊娠を希望されているSLEと診断されているお母さんは、内科の主治医とよくご相談された上で、妊娠する前に産婦人科に現在の病状を報告して両科の管理下で妊娠されることを希望いたします。
無理やり妊娠されても母体の保護のために人工妊娠中絶が必要になることがありえます。
母体が安全であって初めて元気な赤ちゃんを産むことが可能なのです。
  
  完全房室ブロック#1 心臓の刺激伝導系で、心房から心室に刺激が伝わらないか、刺激伝導が遅延する状態をいいます。言い換えれば、心臓の中の配線コードが途中で断線してしまった状態です。 

 Copyright (C) 2009.internethospital. All Rights Reserved.